跡部にもらったティッシュで盛大に鼻をかむと、千石は大きく深呼吸した。
もう声が震えることはなかった。
目と鼻の頭が赤くなっていることを考えると、家へ帰るのが少し億劫だったが、今一緒にいるひともそうだと思うと可笑しかった。
「何にやにやしてんだお前」
帰るぞ、と公園を出て行こうとする跡部を千石は追う。
ふと、出たところに、自動販売機があるのを見つけて跡部を追い抜かして駆け寄った。
ポケットをまさぐる。
「おラッキー! ちょうど120円」
コインを入れて、うーんどれにしようかなと迷っていると、横からすっと手が伸びて、コーヒーのボタンを押した。
がこん。
「ああー!」
「うるさい。お前が遅ぇんだよ」
缶コーヒーを取り出しながら跡部が面倒くさげに言う。
「ひどいよー俺こまかいのそれしかなかったのにー!」
そう千石が言う間に、跡部は自分のコインケースから硬貨を取り出すと、自動販売機に入れる。
さっさとボタンを押し、もうひとつ缶を取り出す。
「どうせお前はこれだろ」
ほらよと投げ渡すと、跡部は缶コーヒーを開けて歩き出した。
千石は手元に残された缶に目をやると、それはロイヤルミルクティの缶でちょうど迷っていたうちのひとつだった。
なんだか嬉しくてぼうっとしていると、随分先に行った跡部が大声で自分を呼んだ。
待ってよと、余韻に浸りながら、慌てて千石は追いかけた。



駅へ向かう道を二人してゆっくりと歩く。
その道のりで、先ほど繋がらなかった電話の原因はお互いだったということに気づいて、顔を見合わせて笑った。
「でもメールすればよかったんじゃ……」
「めんどくせえ」
「……あっそう」
少ししょんぼりした千石に跡部はため息を吐きつつ、返す。
「つーかそういうてめぇは何でしなかったんだよ」
「……思いつかなかった」
「バーカ」
「ひど! でもこういうの以心伝心っていうの? 同じときに電話しちゃうなんて運命だよね!」
元気よくぴょんと跳ねたせんごくの横で、
「すれ違ってちゃあ意味ねえけどな」
とさらりと跡部が呟いた。がーんと千石が言ってみせる。でもすぐに笑って、
「でもこうやって本物の声が聞けてよかった」
と言って、ミルクティをすべて飲み干すと、近くにあったゴミ箱にシュートした。
からんと音を立てて缶は収まる。
ラッキーと千石は呟いた。

「千石」

その様子を見ていた跡部が呼びかけた。千石が軽い足取りで振り返る。
「ん?なに?」
跡部は少しうろたえた表情で、それでも真っ直ぐに千石を見据えて言う。
「お前、部活、ちゃんと出ろよ。休みの日とか、時間作ればいいだろ。会えないときはメールすればいいし。もう、サボったりするな」
最後の、優しい口調に千石は眩しそうな笑みを漏らした。
「……うん。俺テニス頑張るよ。でもすっごく会いたくなったら、行っちゃうかも。そのときは許して」
その言葉を受けて、跡部も困ったように笑った。
「ねえ跡部くん」
「何だよ」

「俺たち、お互い同じものが欲しかったんだね」

跡部は、少しの間黙っていたが、思い直したように、そうだなと小さく返した。
その様子に千億は満足な表情を浮かべると、
「跡部くん大好き!」
と大きめの声で言ったので、跡部は恥ずかしがる間もなく、千石の頭をカバンで叩いた。


その後で、千石を追い越す瞬間に呟いた跡部の言葉は、千石に届いただろうか。
振り返った跡部は、夕日に照らされて一層赤い千石の髪、そして顔をくしゃくしゃにして笑う千石を見て、自分も最大限の笑顔で応えた。



本当の恋が始まるなら、それは今だと、跡部は思った。





二十億光年の孤独な恋を越え 4





fin.





終わったー!!!(床に転がりつつ)
いろいろと反省する点の多い作品でもありますが(汗)、
書きたかった、というか、書かなきゃいけないもののひとつが無事終わって満足ですとりあえず。
そう、題名の「二十億光年の孤独」は谷川俊太郎氏の有名な詩から。

1は山吹メンバと氷帝メンバ、初書きだったのですが楽しんで書いていました。東方とか室町くんとか、書いてて楽しい・・・
東方はウチ設定だと、一人だけいつも会話についてきてない人です(笑) でも気にしない人。
どこの学校も、皆仲良いといいなあ。
2は、氷帝のところ、あれ下書き当初は全部なかったんですけど、氷帝サイドもちょっと書き込もうと思ったらなんかすっごい、
忍足が目立っていました・・・・・・ それにしても、跡部と千石の関係は皆にバレてるんですね・・・(笑)
3。「バカ跡部!」って言う千石、叫ぶ跡部、ついには泣く二人、が書きたかった。

今回の4。
量的におまけみたいな感じですが(笑)、やっぱりここがいちばん書きたかったところです。
この話は終わりだけど、始まりはこれからですから!
題名どおり、孤独な恋を越えて、二人の恋が始まるといい。

最後までお付き合い下さってありがとうございました!

2004.3.14

This fanfiction is written by May.



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