手紙を書きます。
 壊れたので書いています。

 手紙です。届いた時点で分かっているかと思いますけど。
 なんで手紙? ってにやにや笑う黒尾さんの顔が目に浮かびますが、俺にもよく分かりません。とりあえず連絡したくて書きました。
 水没させる奴なんて、と思っていたので不覚です。(今日水たまりに落としました。)明日、先輩たちに話すのが正直嫌です。
 親に謝って頼んで、今週末に新しいのを買いに行けることになったので、LINEもメールも電話も確認できません。ので、無視してるわけじゃないです。怪我も病気もしてません。大変なことにもなっていません。
 写真のバックアップ、ほとんどあると思うんですけど、秋合宿のときのはないので今度送ってください。ずっと前に俺が撮った寝顔のやつ、そっちにあります? 俺のじゃなくて黒尾さんの。確かLINEで送ったような気がするので、なかったらください。
 あの寝顔の写真がいちばん好きだから。あと、寝ぼけて笑ったときのも好きです。(こっちも探しておいてください。)データが取り出せればいいんですけど。今乾かしてます。
 スマホが壊れて、「壊れた」って黒尾さんに最初に連絡しようと思ったのに、使えないのすんげーめんどいですね。
 ないからこれを書いてるのに、「今手紙書いてます」って送りたくなって、使えないことをいちいち思い出すの、すんげーめんどいです。
 ほとんど電話しないのに、こういうときに限って電話したくなるから、すんげーめんどいです。 そんなに依存してると思わないんですけど、だって思い返しても言うほど送ってないし、待ち合わせのこととか、合宿のこととか、眠い、腹減った、おやすみとか、たいしたことないことばっかり。
 でも、そういうこと、黒尾さんには話したい。
 今日、虹を見ました。壊れてなかったら、黒尾さんに送ろうと思ってたのに。
 ……書き終わったらすぐに出して、この手紙って明日には届くんですかね。
 さっき夕飯食べ終わりました。黒尾さんの好きなサンマの塩焼きでした。風呂にはもう入りました。宿題は朝学校でやります。あとは寝るだけです。
 こんなことも、黒尾さんに届くのに信じられないくらいの時間がかかる。届くころにはきっと別のことが言いたくなってると思うと、やっぱりすんげーめんどくさいです。

 1日分の距離は遠すぎて、俺には無理だ。
 この手紙はたぶん一応送ります。

 だから黒尾さん、壊れたので電話します。



fin.(2016.10.15)
10月のクロ赤の日でした。今回こそムリかと思ったのですが、どうにか間に合いました。
さっくりあっさり短めです。でも、我ながら、赤葦らしさはちゃんと詰め込めました。(笑)
思えば、ひとつ前の更新も手紙の形をとっていて、それぞれのらしさが手紙の書き方にもきっとあるだろうと思うんですけど、赤葦はやっぱり基本何事も簡潔じゃないかなと思います。もちろん、気が回るし思慮深いところもおおいにあると思うのですが、実際に起こす行動としては、回りくどさはなくストレートじゃないかな。たぶん、周りが思うより気が短い。
黒尾につらつらと情景描写やら気持ちを吐露させるのは違和感がないのですが、赤葦は、こういうふうに言うとあれですが、書き言葉における情緒がないですね(笑) でも、それがとても似合う。何かにたとえることなく、託すことなく、伝えたいことだけを語るのは、とても彼らしい。
最初はわりと丁寧に書こうとしているのに、だんだんそれもちょっとめんどうになってきて、書き方が雑になってくるのもウチの赤葦らしいし、ください、って遠慮なくお願いするところも年下らしいというか、そういうところ、赤葦は素直でかわいいなあと思いました。
手紙を書き終えたら、すぐに電話して、手紙とほとんどおんなじこと喋って、「見たいから送ってよ」って言われるから次の日の朝に投函します。そしたらきっと、その日の夜かその次の夜に黒尾さんから電話が来て、「お前これこのあいだ全部聞いたよ」って笑われるんだけど、「知ってますよ。でも、電話したくなったでしょ」ってうれしそうな顔、します。
見えていないけれど、黒尾にはそういうの、伝わるんだよね。
This fanfiction is written by chiaki.