ひとの希みの喜びよ
すっかり種明かしをしてしまえば俺は男に抱かれている。気持ちいいことはきらいじゃない。おんなじ生き物どうし、欲しがることに躊躇はしない。恥じらいや淑やかさが見たいなら俺じゃなくたっていい。それは女に見ろと言いたい。言葉より先にキスをしても、ちっとも甘くない言葉になんでか欲を見ても、雰囲気なんつうもんがぜんぜんなくても、服を剥いでからだをまさぐりあって上に跨るのに、男だからという以外の理由がいらないのがいい。台無し、とときどきこぼされるけれどそっから続く会話にとろんとかずがんとかよろめくことだってあるし、何もなかったらとりあえず唇を塞げばいいと、単純なごまかしかたでどうにかなるのもしょせん男だ。ああそうだね、普通男は男の上に跨らない。それはいい。別に普通じゃなくたっていい。俺は負けず嫌いだからきっと、じゃあ普通ってどんなのって尋ねるだろう。自己満足でもわがままでも矛盾してたっていいのに、答えられないやつに限ってひとつになりたいなんて甘く囁く歌を信じてる。笑うしかない。極端だな、と言われてもたぶんふたりで笑う。だってひとつだったら求めないし、境い目がないなら気持ちよくないし、かたちがないなら手で触れてもらえないし指でなぞってもらえないし顔だって分からない。俺は、男の顔させて俺を組み敷いて腰振って俺を欲しがるその顔が好きだ。こっちだけ見て、手に入れた気になって征服した気分になってる顔。女じゃなくて男に欲情して我慢できなくなって優越感に浸ってるなんて、おかしいだろ。そんなの信じてるなんて涙が出るくらいに。ばかみたい、って言ったら知ってるって笑った。泣くのは、やめておいた。ほんとは女みたいに啼くは好きじゃない。けど、好きな顔が見られるならいいかとも思うし、気持ちよくなって勘違いし始めるころにはなんだかもう、この興奮も熱も体温も俺があげてるんだと思ったらぜんぶゆるしてもいいかって、なんだ結局俺もばか。それ見てあっちも喉が震えるなら、笑いたいと、思う。この声は届いてる? そんなこと興味ない。でも呼ぶことも求めることも意味がないとは思わない。思えない。思いたくない。だから、「黒、尾さ、」


fin.(2014.11.15)
赤葦独白篇。こんな赤葦と黒尾がとても好き。希み=“のぞみ”。赤葦は、今さらこういうことに傷ついたりなんかしないけれど、ほんの時折傷ついたふうに切なくなることはある。たぶんそれは“喜び”に似ているんだけれど、名前はつけておかないでおく。疑わないから。
……ぼんやりとしたイメージは、少女革命ウ○ナの最終回あたりの話なんだけど、もう記憶もうろ覚えなので誰にも(わたしにも)伝わらない。
This fanfiction is written by chiaki.