あんたのほうがいつだってなんだって、少し上手だった。
何かを隠すことも、やさしく笑うことも、手垢のついていないほんとうを作るのも、偽りのない嘘をひとりのためにつくことも。
言葉が空回りする夜は先にあんたが笑ってくれた。いいよ、とささやいたその顔があのときの俺のすべてだったと、あんたはきっと知らないだろう。
あんたが欲しい、そう遠慮なく願う俺はわがままだ。絶えず、どこまでも。
許しなどいらない、奇跡などいらない、普通なんかいらない、俺でない俺なんかいらない、あんたが見つめる俺だけがあればいい。
並んでつないだ手の、小指だけを絡ませた。約束もいらない。まっさらな確かさで、あんたが俺に触れられることを信じさせてくれたら、それだけでいい。注がれるその眼差しと知らしめる体温が俺をすり抜けるなら、俺はきっと無いのとおなじだ。
泣いてもいいかって、そう尋ねたらきっと返事はくれなかった。薄雲の向こうで数十年に一度の流星群が空に降っている。誰の目にも、届かずとも。
夜明けの遠い空の全部が俺の目にはたゆたってにじんでいて、見えていてもいなくてもきっとおんなじだったはずなのに、つないだ手がやっぱり俺を見捨てなかった。
あんたがとうに赦してくれてたから、空を流れこぼれ落ちる幾千もの星のように、俺はもう、泣いてもよかったんだ。
fin.(2015.2.22)