もったいぶって話すようなことじゃない。俺は男に欲情してる。どうしてって、なんでだろうね、たぶん気持ちイイことが好きなんじゃないの。一目惚れは8秒で決まるって聞く。俺がいてあいつがいて、俺たちの関係のだいたいを決めたその瞬間があって、だったら次はこうなるだろうって、それだけのように思う。おんなじ身体を暴くのは変な感じだ。こうされたいというふうに触って舐めて銜えて、音を立てるようにくちづけて、俺の手のなかで熱を持ってゆくのは結局俺とおなじ形をしていて、身体を開いてるのはそっちなのにひりひりと剥がされていくのはどうもこっちな気がしてる。あんた、まともじゃないっすね、俺を見て笑った。何も言わないで唇を塞いだ。隙間からこぼれた声の熱っぽさにまた体温が上がる。そうだふつうだ。こんなの、ごくごくふつうで真っ当だ。欲しがって与えて、求められてもらって、抱きしめられたくて縋られたくて、ふたりでいるんだから当然。だって好きなんだから。そうそれ、たまんないね。揺さぶられながら寄こす、俺に喰らいつくような眼差し。女じゃないと何かに怒ったふうに言うけれど、別に代わりとも代われるとも思ってなんかいないけれど、そんな顔、女じゃぜったいにできない。俺とたいして変わらない体格をして、引き締まった筋肉のついた硬いからだを濡らして、男に腰打ちつけられて甘く呻く少し低い声を、俺は聞く。抱かれている、女が見惚れる逞しいからだが俺のしたで。そのことにどうしようもなく興奮して、少しの罪を感じて、今、俺の頬に触った。うん。知ってる。ほんとうはばかみたいに俺は欲張りだ。深くなればなるほど欲は大きくなる。胸がびりびり締め付けられて、気持ちよくて先に泣いてたのはそっちだった。ゆるしてほしいと思うのはきっと間違いなんだろう。親指でぬぐって追いすがるように呼んだら、なぜだかはっとした顔をした。もうなにもかもぜんぶもらってるのにね。なあ俺、今、どんな顔してるだろう。だから、「赤葦、い、って」
fin.(2015.11.17)