「今日ポッキーの日だって知ってました?」
がさ、とテーブルの上に置いたビニール袋の底が崩れかけて留まる。黒尾の返事はそっけない。
「ああ、11月11日ね」
先に家に帰っていた黒尾は、ソファに身体を沈めて手持ち無沙汰にチャンネルをくるくると回しているだけなのに、こちらを見向きもしない横顔は何の面白みもない。テレビの光がその頬と瞳にちかちかといたずらをする。
確かに何かを期待されても面倒なのだけれど、腹を立てるほどのことなんかじゃないのはわかっていて、赤葦はじっと瞬きの少ないまなざしを黒尾に向けた。
フローリングの床で足音をやさしく殺す。すたすたすた、と視界の端から近づいて、
「黒尾さん」
と、呼びかけた。
すっぽり包む自分の影のなかで黒尾が顔を上げ視線がすい、と動くのを見てから、赤葦は唇にくわえたチョコレートをぱくり、と口に入れた。するりと黒尾の首根っこをつかまえてご機嫌いかがとキスをする。ひとつぶがゆっくりなくなるまで溶け合うふたつの唇。
甘い香りが鼻先をふわりとかすめる。甘くない顔立ちが自分のために小さくほどけて、ねえ、ポッキーはなかったの、と困ったようにくしゃりと笑う。
ああチョコ色のわがままが満たされて、赤葦はひた、と溺れた口の端を舐めとった。目を細めて、あまく嘯く。
「味はいっしょでしょ」
fin.(2014.11.11)