蜜 夏(みつか)
硬くない床の上に音もなく落ちていった消しゴムが小さく跳ねるように転がったのを、上から押さえつけるように半袖のまだ日焼け過ぎていない腕がすっと伸びて捕まえる。気づいて、手が一瞬動きを止めた。少し先に自分より少し大きいはずの上履きが考えごとをしているかのように時折小さくたすたすと床を叩いている。その足元を見やって赤葦は、そうでもないのに眠そうだとよく言われるまぶたを一度ゆっくり瞬きして上体をのそりと引き戻した。
まだ半分も埋まっていない問題用紙の横へ消しゴムを置いて椅子を引き、座り直す。パイプの脚のわずかに床を引っかいた音が空調と時計の秒針だけが息づく教室に響いたのを無関心に聞き、シャーペンを手にして解きかけだった問題文を最初から拾い始めた。少しずつ、また無音と思考の世界に戻りかけていたそのとき、用紙の端っこをいたずらに引っ張る手がぬっと横から伸びてきたのに、赤葦は視線を下に落としたまま手の主の顔を確認することもせず眉をしかめた。
「……黒尾さん」
「いいじゃん」
「良くありません」
というかこんなことしてもと言いかけて一応小声で交わされていたその会話は、ぱしん、と小気味良い音にたやすく中断された。当たり前だ。赤葦は小さくため息をつきながら顔を上げ、隣の机に座る後頭部を両手で押さえた黒尾を見る。その背後には教科書らしきものを丸めて握った数学教師が立っていた。
「いっ、てえ」
「アホ!先生のおる前でカンニングするやつがいるか!」
真面目にせえよ黒尾、と教師が半ば呆れ顔でその黒尾の頭を叩いた本でとんとんと自分の肩を叩く。まだ四十代のその教師は白髪まじりの髪のせいで上に見られがちだが、海へ潜るのが趣味だという日焼けした精悍な顔つきには若々しさがある。さっぱりした性格で話しやすく冗談も通じる方で、それを分かった上で黒尾はテスト中にこんないたずらをするのだ。
「いつまで寝とる」
頭を叩かれて机の上に突っ伏したままだった黒尾の背中を教師は軽く小突いた。のそっと起き上がった黒尾の目元がいつもより重く据わっている。がしがしと、寝癖の残ってまるでとさかのように上へ跳ねたその髪を黒尾はかいた。
「タイバツ反対」
「……赤葦プラス五分、黒尾マイナス十分」
腕時計を覗き込み残り時間を計る教師を、ええ、と不満気に喉を鳴らした声を出して黒尾が振り返る。
「なんで!」
「ぐだぐだ言うからじゃ。ほら赤葦、集中集中」
「はい」
二人のやりとりをぼんやり見守っていた赤葦は笑顔を作った教師に手で促されたのに頷いて問題用紙にまた向き直る。横で不服そうな黒尾と取り合わない教師がまだやりとりしていたがそれもすぐに収まって、後ろへ戻っていく小さな足音が消えるのと同時にまた教室は静けさを装う。問題に気持ちを向けるのが少し億劫になって、赤葦は意味もなくシャーペンで用紙の隅を小さく傷つけた。
なんとなく気配を感じてちらりと目線を横へ滑らせると黒尾が同じようにこっそりとこちらを見やっていて、にっと口の端を上げて笑った。懲りてないな、と呆れを含んだ目をひそやかに細める。
「黒尾ー、これ二年の問題やぞ。満点とれよ」
お前出来んだから、と釘を刺す教師の声がタイミングよく後ろからして黒尾が赤葦から目線を外し下唇を出すように苦い顔をする。それを見て赤葦は声を出さずに小さく肩を揺らした。


この小さな小さな島に高校生は二人しかいない。
昔はもっとたくさんの足音が響いたはずの古い廊下も今は行儀良さをいつでも保ち、賑やかな笑い声に満ちていただろう教室も空っぽのままいくつも取り残されている。木造の古い校舎の、ひとつの教室に並ぶ自分と黒尾の机。
学年はひとつ違うけれど、合同で行う授業も多いから基本は一緒だ。今日の数学のように復習として高校二年生の履修内容のテストを同時に受けるときもあれば、机の向きをそれぞれ逆にして教室の前後にある黒板を使い、別々の科目を受けるときもある。
中学生だったころは同年代も自分と黒尾を合わせて十一人はいたはずなのに徐々に減って、赤葦が高校へ上がるときには自分たち二人だけになっていた。最近は役所が力を入れている移住補助金制度のおかげで小学生の人数が少し増えたらしいが、同じ校舎で学んでいる中学生は一年生が3人で、赤葦が高校を卒業するまでに同級生や後輩が増えるのはまずないだろう。
生温い風が緩い坂を吹き上げていく。いっそのことないほうがいいのにと思うほどにそれは涼しさのかけらもなく、ぬらりと赤葦の頬をすくい、湿気でいつもよりひどく感じるくせっ毛を弄び、もたつくような鈍さで過ぎていった。曇り空に太陽は隠れているのに、夏の気温にじわじわと肌が湿っていく。
学校は小高くなった島の中心近くにある。住民のほとんどは沿岸部に住んでいて、赤葦も黒尾も朝はこの坂を上り、帰りはこうして海の方へ下る。舗装された幅広い道の脇は夏草の生い茂る野原で、風に揺れる葉の擦れあうその中で名前も知らない虫の鳴き声があちこちでしている。街路樹なんてものはなく、背の高い木は学校の周りや山の方に多いので蝉の鳴き声は少し遠かった。
道沿いの白いガードレールを目で追うのをやめ、そのまま歩きながら肩越しに振り返る。ゆるやかに蛇行して下ってきた坂の上に、もうだいぶ遠ざかった校舎の青い屋根と小さなグラウンドのフェンスがあった。そのさらに奥には、夏の明るい緑になった小さな山が見える。
「あかあしー」
気だるさを混ぜた低い声に呼ばれて正面を向くと、自分の先を歩く黒尾の猫背気味の背中が相変わらず緩慢な足取りで歩いている。なんですかと答えながら赤葦は黒尾の言葉の先に見当をつける。少しだけ歩幅を大きくして足を踏み出す。
「“しまなか”寄ってこーぜ。アイス食いたい」
「またですか」
「あっついんだもん。やることねーし海行けねーし」
やることと海へ行くことは黒尾の中では同意義だ。黒尾は五センチほど赤葦より背が高い。だから顔を見上げるときには少しだけ顎を持ち上げる。つまらなさそうに瞬きする黒尾の顔が斜め後ろから見える程度に追いついて、小さく表情を崩した。
「海は、確かに今日も無理ですね」
潮の匂いが風が抜けるたびに鼻先をかすめていく。長くゆるやかな坂道もあと少しで、陽気とは遠いくすんだ色の屋根をした平屋の家が集まる質素な町並みが近づき始めている。その向こうには島を囲む鈍色の海が広がっていた。都会と違って、人々のざわめきも車に行き交う音も気配もこの島にはない。常に有るのは、ぐるりと自分たちを取り囲み鳴り止むことのない波の音だ。
どこまでも広がる海の沖に、波がいくつも白く砕け散るのを見る。今日も波が高そうだ。ここ最近海へ行くのを心待ちにしている黒尾も赤葦と同じようにぼんやり海を眺めていた。
連日雨というわけではなかったが、長い梅雨のせいで天気も悪く海も荒れ気味なのが続いている。岩場に崖、港に囲まれている島なので安全に泳げる浜辺はない。島に住む子どもは普段から口酸っぱく、少しでも波の高い日や天気の崩れそうなときは海へ近づかないように言われている。
坂を下りきったところで海沿いの道路へ出た。海が近いと風が梅雨の湿気とはまた違う潮の粘り気を含んだのをべとつく肌が感じた。黒尾が迷いなく右に曲がったのにおとなしく赤葦もついていく。ほどなくして潮風に錆び、陽を浴び続けて色褪せた看板を掲げた小さな店の前で黒尾が先に足を止めた。
“しまなか”は昔からあるタバコ屋だ。店の前にある年期の入った低いモーター音が唸るアイスケースの、滑りの悪くなったその扉を黒尾はがたがた音をさせて開けた。迷う素振りもなくひとつアイスを取り出し、待っててと赤葦に声をかけて中へ入っていった。
店の出入り口の横にはタバコの並ぶガラスケースと小さなカウンターがあるのに店主がそこから顔を覗かせているのを赤葦はいまだに見たことがない。ガラスケースに並んだ色とりどりのパッケージに、日焼けしないのだろうかと今まで何度も考えたことのある疑問が意味もなく浮んで知らないうちに消えていく。
朝と変わらない、降り出しそうで降り出さない雲の低くたれこめた空に押し込まれるように、地上は梅雨の湿気で蒸し暑い空気が淀んでいる。気休めにもならないのに、シャツの襟元をぱたぱたと仰ぎながら手の甲で額の汗を拭い、灰色の空を見上げた。梅雨に入ってからずっとこんな天気ばかりだ。黒尾ほど海へ行くのが待ち遠しいわけでもないけれど、夏のからりとした日と海の水の冷たさが少し恋しかった。
薄暗い店内から戻ってきた黒尾の手にはむきだしのソーダアイスがあった。持ち手の二つ付いたおもちゃの宝石のようなそれを黒尾は上手に半分に割り、赤葦に差し出す。
「ほいよ」
「どうも」
こうしてときどき奢りあうのはいつものことだ。一瞬指先のひやっとする棒を摘むように受け取って澄んだ青空みたいなアイスをかじる。一口分の涼やかさと爽やかなソーダ味が口の中でほどけてわずかに暑さが遠ざかる。黒尾も一息ついたような顔でアイスケースに寄りかかり、あちーとごちりながらアイスを食んでいる。
二口目をかじろうとして、あ、と声には出さず呟き、赤葦はじわじわと傍から溶けていくアイスの端を小さく舐め取ってから黒尾の顔を見た。
「黒尾さん明日の体育、覚えてます?」
「あーそうだそうだ。忘れてたわ」
「この間はなんとか下だけ貸してもらえましたけど、今度こそパンツ一枚でやらされますよ。俺嫌なんで。そんな人と一緒に授業受けるの」
ああこの前ね、と先日ジャージを忘れた体育のことを思い出したのか、げんなりした顔で黒尾は前歯を使って氷を噛み砕く。
「シャツのままってあれ最悪な。汗だくよマジで」
「自業自得です。あのときも忘れるなって前の日に言ってあげたじゃないスか」
「つーか今度忘れたらさ、赤葦半分貸してよ」
「意味分かんないです」
「上と下で、半分」
もう残り一口分しか残っていないアイスの棒で黒尾がまず赤葦を指し、次に自分を指した。にやっと笑うその顔に赤葦は大げさにため息をついてみせる。
「アホ言わないでください。ぜったいに貸しませんよ」
軽く睨みつけるようにしても黒尾がそれに笑みを収めることはない。気に留めることなくアイスの残りを口に含んで目を伏せる。元々薄くて細い眉と長くもないまつ毛がすっと伸びて作る線の形は何度見ても整っている。目つきのけして良くない甘さのない顔は、187センチもある身長もあって昔から大人びて見えた。同年代の女子がいたらきっと人気があっただろう。
目を引かれていたのに気づかれないよう見やったアイスの端っこから、ぽた、と水色の水滴が落ちたのに、赤葦は慌ててそれを口に運んだ。じゅわっと形をなくし始めた氷が舌の上でたやすく崩れる。
ソーダ色の砂糖水になってしまったアイスの一滴が蜜のように棒から滑り落ち、手のひらを伝っていく。水よりもとろけたしずくが甘い匂いを残してするすると這う。じとりとした違和感はその甘みのせいか湿気のせいか、もう区別がつかなかった。暑さに溶けていく熟れた果実のように今にも落ちそうな最後の一口を、手を拭うよりも先に口に入れてしまう。最初に舌を冷やした涼しさはもうなくて温く焼く甘さが下っていくのを、喉を鳴らして赤葦は飲み込んだ。
「赤葦、腕」
顔を上げれば、先に食べ終わっていた黒尾がアイスの棒を揺らしてこちらを指している。促されて腕を持ち上げ覗き込むと、垂れた水滴が薄い水色の筋を残して肘の近くまで伝っていた。ああ、と曖昧な返事をして、水場もなく家が近いことも考えると、べとついた感覚が残るならハンカチで拭う必要もないかと思案する。それはあまり長くない間だったが、すっと薄い影が沈黙のまま赤葦の視界に差した。見上げたのと肘が軽く掴まれたのはほぼ同時だ。動かない眉の下におさまった据わった目は閉じることも笑むこともなく、こちらを見ることさえない。ほんの少し目を細めて、赤葦の腕を伝う甘ったるい香りに吸い寄せられるように黒尾が躊躇いなく唇を寄せる。ひた、と赤い舌先で舐め取って、薄くも厚くもない唇を小さく押し付けてあっけなく離す。柔らかい粘膜の温さと、耳に残る小さく弾けた水音。
驚いて声が出ないなんてことはもうない。反応に困って目を少し見開くけれど、黒尾がそれを見届けることはなく、
「捨ててくるわ」
と顔を上げ、ゆるく握られた赤葦の手から棒を勝手に受け取り、少し丸めた背中が素っ気なさを背負って店の中へ入っていった。中から聞こえる黒尾と店主の呑気な声に赤葦は目を伏せて小さくため息をつく。いつもこうだ。黒尾はしたいようにだけして、待つことはない。
のろのろと、遠くに視線をやるように舐め取られたところを見る。水分はこの気温にもう乾いて、溶けきれない甘い跡がうっすら光っていた。ぴり、と肌にはりつくような感触にほんの少し顔をしかめて、遠ざけるようにいささか雑に腕を下ろす。
黒尾はすぐに店を出てきた。外へ出るなりまたいつものとおり暑さにごちて、赤葦を見る穏やかな顔にさっきのことを取り繕うものも言い訳するものも気に留めるものも何も浮んではいない。
重たげなまぶたを眉の下でぴくりとも動かさずに、行こうぜと今はこちらを見る黒尾を赤葦は見つめ返す。こういうときに言葉で咎めることは随分前にやめたけれど、これはこれでささやかな意思表示として伝わっているのかは疑問だ。
「……あした、忘れないでくださいよ」
ひとさじ諦めを混ぜて呟くと、おおと軽く答えて笑う黒尾が歩き出した。思わずこぼれかけたため息を深く息を吸い込むことでやり過ごし、赤葦は一歩踏み出す前にゆっくりと一度だけその後姿をまぶたで塞ぎ、汗でシャツの張り付いた骨っぽい背を追った。


こんな距離感になったのはいつからだろう。
年の近い友人が互いだけになってしまったころだったようにも思うけれど、その前から少しずつ、その距離がゆるやかに埋まっていたのは確かだ。ここは、本当に小さな島だ。幼いころは何もないことに気づかなくて目の前にあるものですべてが満たされていたけれども、一日中だって出来た野遊びや虫取りも随分前にしなくなったし、いつのまにか年下とは遊ばなくなった。黒尾の海好きは変わらないけれどそれ一辺倒で夏を過ごすことはもうない。面白くないとか飽きたなど明確な理由があるわけではないのに自分たちがあると思っていたものの前を通り過ぎるようになって、だからと言って何か新しいことが見つかることはなく、なんとなくゆるやかに世界は狭まっていくふうだ。
息苦しいとも逃げたいとも思ったことはない。この島を嫌いだとも思わない。けれど、どこにも行けないこの小さな島の、変わらない景色を見て見慣れた道を歩いて学校へ通い、低い町並みといつだってある海を見下ろしながら帰り道を行き、互いの家で時間を潰す日常はずいぶん、密だ。
この年になると外で遊ぶこともめっきり減った。海遊び以外は体育の授業でやったものが二人の間だけでブームになって飽きるまで続けるか、遊ぶところなんて何もない島を自転車でうろつく程度だ。
おもしれースポーツは何でも人数がいるんだよな、といつだったか小学校の前を通り過ぎたとき黒尾が言った。校庭では1チームをやっと作れるほどの人数が草野球の真似事をしていて、柔らかなボールとおもちゃのようなバットがバッターボックスで踊っていた。昔は自分たちも同じように遊んだけれど現状二人では終わりの見えないキャッチボールが関の山だ。黒尾の言葉にまったくそのとおりだと赤葦も心底同意したものだ。
赤葦がこの島へ越してきたのは小学生に上がるときだ。父がこの島の出身で戻ってくる形になったのだが、そのとき町内会の委員をしていたのが黒尾の父で赤葦家を気にかけてくれた縁で赤葦と黒尾は知り合った。そのときからそこそこ背の高くて目立っていた黒尾は同年代のまとめ役だった。身体を動かすのが好きで擦り傷をよく作っているようなやんちゃな面もあったけれど、意外と本好きでずかずかと踏み込んでくるようなやかましさがなくて、口数の多くない赤葦と不思議と気が合った。
赤葦は、立てた片膝に左肘をのせ手の甲に頬を預けた体勢で、斜め前に座った黒尾の横顔を眺めた。
二人でいるのは基本的に楽だ。いつの頃からか昔と比べると黒尾も口数の少ないほうになっていて、それは赤葦が積極的に会話をしないからかもしれなかったが、互いに沈黙は苦にならないし同じ部屋で別々のことをしていても気にならない。気が向いたときにする取りとめのない会話もそのゆっくりとした呼吸と速度がしっくりくるし、前触れなくぷつりと中断する緩さもわだかまりにならない。
今日もなんとなくの流れで赤葦の家に黒尾が来ることになって、宿題を片付けてからお互い本に手が伸びた。黒尾は読みかけだという赤葦のソフトカバーを本棚から取り出して、もう数十分前から壁に寄りかかりながらそれを読みふけっている。赤葦はというと、昨日黒尾から借りた雑誌を座卓の上に広げてみたものの、大してページを繰らないうちにこっそりと顔を上げ、いくら視線を送っても気づく気配のない黒尾を見ていた。
黒尾の涼やかな目が紙の上で行儀良く並ぶ文字を拾って行を追い、目線がゆっくりと小さく上下する。今声をかけてみてもろくな返事は返ってこないだろう。ちら、と静かに瞬きして見開きの先のページに目が移動したのに、気づかれるとは思わないが条件反射のように赤葦は視線を外した。帰ってきてすぐに用意した麦茶のグラスがエアコンの効いた部屋でもそこそこに汗をかいて、合板の座卓に染みを残さずに透明な水溜りを作っていた。頬から手を逃がして雑誌をめくる。読む気のおきない文字の羅列ほど、消化不良に脳みそに滞るものもない。何かに集中する気になれない理由はすぐそこにある。今度は片膝にそのまま左の頬を押し付け、ことんと首を傾けて伸ばした右腕の先をゆるかに目で辿った。
「きれいだね」
と、黒尾は赤葦の手を褒める。最初その台詞を言われたときは間の抜けた言葉をどうにか形にしたくらいに呆気にとられたものだ。赤葦の手は親譲りで、指は長く女のような細い爪をしている。けれど身長もあるから手自体は大きい方だし、本当の女のような華奢なつくりとは程遠い。正直、黒尾に言われるまで自分の手のことを気に留めたことはなかった。当たり前だ。今まで誰にも褒められたことがなかったし、男の手をきれいだと言われるようなものだと思ったことが赤葦にはない。そもそも部屋で二人きりで、その手をとってやさしい顔までしてみせるのはふつう異性にすることだろう。その台詞にむずがゆくなることはだいぶなくなった。受け流せるようになったとは言いがたいけれど、今はそっけなく、どうも、と言ってみせるときに何か気取られないかが心配だ。
「ちょっと貸してよ」
と言われるのには、触れられるすべらかな体温を想像していまだ慣れない。けれど断る言葉が咄嗟に出なくていつもこうして応じてしまう。いつも差し出しかたを迷っておずおずと手の甲を見せるように黒尾の前へやって、結局おとぎ話の王子と姫のようなことになるのを赤葦はだいたい後悔するのだけれど、黒尾が褒めるのも求めるのもやっぱり赤葦の目を見て言うことはなくて、手を出してやるとようやく穏やかな表情をこぼすからなんだかもうなし崩しになる。その顔が見たいと思うのとは少し違う。ああやっと笑った、とどこかほっとするようなそんな心持だ。
視線の先にある、黒尾の左手につかまえられた自由にできない赤葦の右手。四本の指をするすると絡ませ、親指を使って爪先の形をそっとなぞってみては離し、今度は中指をやさしくつまんで肌の滑りを楽しむようにその形を確かめてみるようにする。そうやって、放っておけばいつまでも黒尾は赤葦の指を絡め取って無意識に手に触れ続けている。飽きないんスか、と尋ねてみたことはある。この行為自体が好きなのだ。
黒尾の薬指と中指が赤葦の中指を挟み、それを人差し指と親指が肌の感触を味わうようにゆるゆると撫で続ける。黒尾の親指の腹の柔らかさと中指の側面の骨の硬さを、高くない体温とともに赤葦は絡められた指に感じた。自分のものが他人にされるがままに好きにされているのを見続けるのは変な気分だ。愛おしそうに、慈しむように触れるそのやさしさは、いけないものを覗き見しているような気にさえなる。
相変わらず黒尾は読書に没頭したままで、それでも指を絡めて触れるのをやめる気配がないのはもはや惰性だ。器用に右手で本を支えページも繰り、赤葦の視線に気づく様子も見られない。そっと離れていったってこの集中力なら気づかないんじゃないだろうか、そう思うけれど一度も出来ずにいる。
弄ぶ黒尾の手を赤葦はじっと見つめる。ほんの少し日に焼けた肌の下で、指が絡まるたびに手の甲の骨と青白い血管が浮き出ては沈む。赤葦よりも骨っぽくしっかりとしたつくりの指が蜘蛛の手足のようになめらかに動いて、獲物を上手に捕まえる。平たい指の腹が撫でて滑ってて、ふつりと離れかけて指先同士が触れ合って、またするりと深く絡んで手が重なる。黒尾のだって褒められるような手をしていると赤葦は常々思う。赤葦と同じような爪の形をした器用さを窺わせる長い指の、自分より少し大きな女々しくない手が大切なものを扱うように触れるのがいつも少し不思議で、皮膚の下がくすぐったかった。
たいした力も入れず垂れ下がっていた腕が引っ張られてゆるく張る。赤葦はひそやかに顔をしかめた。指を絡め触れるのに飽きたのか、黒尾が赤葦の手を取り口元に運んでいる。赤葦の指に唇を寄せて押し付けて時折離した。静かな部屋にその音がこぼれることはなくて、敏感な指先に黒尾の柔らかく皮の薄い粘膜の温さと、浅くほんのりと呼吸する吐息の、思った以上の熱のかけらが落ち留まって赤葦を引きとめ続ける。視界の邪魔にならないんだろうかと気になるが、やっぱり本から顔を上げる素振りはない。ため息のかわりに一度目を閉じてから、ゆっくりと重く感じるまぶたを持ち上げた。
「……くすぐったいです」
随分久しぶりに発したような気分になった声は少し小さすぎたのか気づいてもらえない。次はもう少し息を吸い込んでから形にする。
「もう、いいですか」
「ん」
赤葦の呼びかけを黒尾が理解したのかは甚だ疑わしかったが、顔を上げるのと同時に口元から離された手を見て赤葦は気だるげな唇から息をこぼす。何が、と首を傾げて心当たりのない顔で尋ねる黒尾に小さく首を振り、もともと強く掴まれてなどいなかった手を黒尾の中からするりと引き抜く。今まで雑誌を読んでいたふうを装う前に目に入ったのは、一瞬名残惜しそうな色を浮かべた黒尾の眼差しだったけれども、言葉でも力でも引きとめられることはなかったので大人しく見なかったふりをする。
黒尾が知っていてすることにも知らないですることにも、どうにも心がそわりと波立つ。今のだって止めなければどこに辿り着くのかわからないから、いつもこの辺で赤葦は切り上げる。惰性のような無意識はいちばん性質が悪い。こちらのことなんてお構いなしに揺さぶって、何を待つわけでもないのにふわふわと居座り続ける。こうやって少しずつ赤葦のことを捕まえて逃げられなくするのだ。片肘をついて覗き込んだ雑誌の文字がさっきよりもひどく形をなくして、結局拾う端から崩れて消える。黒尾の手の感触が残る右手を隠すように折りたたみ、心の中で小さく赤葦は悪態をついた。
赤葦が雑誌を読むふりをするのに飽きたころ、そろそろ帰るわ、とあくび混じりの声がして黒尾がのっそりと立ち上がり、普段と何ら変わらない二人の時間が終わった。先に部屋を出た黒尾を追って、気の床の廊下をぺたぺたと歩く。いつのまにか帰ってきていた母が料理をする台所の横を、おじゃましましたーと黒尾が通り過ぎるのも母が明るく答えるのもいつものことで、夕飯の良い匂いを赤葦が胸に吸い込む間に黒尾は玄関で靴を履いていた。鞄を背負いなおして引き戸を開けながら半身で振り返る。
「じゃあな」
「また、あした」
男子高校生の別れ際などこんなものだ。一応なんとなく玄関まで見送りはするけれど女みたいに玄関先で会話をすることもないし、黒尾も別れの言葉を言いながら身体を戸の向こうへ滑り込ませていて、カラカラと鳴る音にその言葉は半分轢かれている。静かに戸が閉まり、気づかぬうちに陽の沈んで薄闇が透ける磨ガラスの向こうにその人影がすっと消えた。床に足の裏の張りつく少しの不快感といっしょに、赤葦は部屋へ戻る。途中母に声をかけられたからもう少しで夕食の時間だろう。
座卓をたたんで片付け、借りた雑誌を拾い上げる。ああもう返してしまってもよかったなと思い立ったが遅い。勉強机の上に軽く放ろうとして自分のではない参考書が机の上にあるのに気づき、赤葦は思わずドアの方を見る。黒尾の家は五分ほどしか離れていない近所だから走って追いかける必要はあまりない。届けようと思えばまったく苦にはならない距離だ。それを考えたのではなかったが、赤葦は逡巡してから雑誌とそろえて机の端に置き、後で鞄に入れれば良いかと思ったことに少し呆れて、ばかだな、とぽつり呟いた。


こつこつ、と合図のような硬い音がしたのに、夜も更けて静かな時間に机に向かっていた赤葦は首を巡らせる。すぐに同じような音が届き確信を得て、赤葦はシャーペンを放り出し窓へ駆け寄った。気を遣ってカーテンを開け鍵を跳ね上げる。開けた腰高の窓の向こうには部屋の眩しさにほんの少し顔をしかめた黒尾がいた。
「黒尾さん」
誰かなんてもう分かっていて驚きもしないのに、赤葦は頭ひとつ分低いところに立つ黒尾の名を呼んだ。見上げてばかりの顔が目線の下にあるのは何度見ても新鮮だ。赤葦も大した用事でないときに同じように黒尾の部屋の窓を訪ねる。黒尾などは何度かそのまま壁を乗り越えて上がりこんだこともある。よう、と笑う顔が何かを言いかけたのを聞かずに赤葦は部屋の中へ引き返す。
「これでしょ」
窓枠の縁に手を引っ掛けた黒尾の前に戻ってきて忘れ物の参考書を差し出した。受け取って、黒尾がそれに視線を落とす。
「そうそう。やっぱお前んちか。学校に忘れたんだったらもういいかと思ってたんだけど」
「これからやるんですか」
「一応ね。受験生だもん。なあに、含みのある言いかたして」
言い回しに込めたものに黒尾がしっかりと気づいて、赤葦を見上げる目を細めた。いいえ、と表情を崩して言うと、黒尾も同じような顔をした。窓枠の形に切り取られた部屋のライトのの落ちる中で、黒尾だけが赤葦の薄暗い影に閉じ込められている。眩さに目を瞬くことももうない。
「……そういえば、このあいだ本島まで受けに行ったテストはどうだったんですか」
「ああ、あれ。結果見せなかったっけ。第一志望はどうにか合格圏内。第二第三は大丈夫かな」
「そっか。よかったですね」
黒尾も赤葦も勉強は出来るほうだ。進学塾も予備校すらもこの島にはないが学校で少ない人数で教えてもらっているのが二人には合っているのかもしれない。もう時計は十時過ぎを指しているだろう。帰って勉強に取り掛からないとあっという間に寝る時間になってしまうと思うのに促すことが無粋のような気がして、けれどそれが自分の思い込みなのか量りかねて中途半端に開きかけた唇が沈黙を守るあいだに、黒尾の手がそっと伸びて赤葦の髪の端をつまんだ。
「……、風呂入った?」
湿ってんね、と跳ねた髪を人差し指と親指でつかまえて黒尾が小さく引っ張った。躊躇いがちに引き出した言葉が言いたくないものをごまかすものだということは分かっている。それに気づいたからというわけではないけれど、赤葦も喉に引っかかっていた言葉をそっと飲み込む。
「黒尾さんは、まだなんですか」
「帰ったら入る。アイツ長風呂でさ」
黒尾が唇を尖らせるのは妹のことだ。四つ離れた中学生の妹とは特に仲が悪いということもなく、異性の兄妹ならこんなものだろうという具合に上手くやっているように窺える。黒尾が妹に怒るような態度を取っているのを赤葦は見たことがない。黒尾のやわらかいやさしさはこういうところで作られたのだろう。
「あ、そうだジャージ」
「やべ忘れてた」
「ほんといい加減にしてくださいよもう」
ため息をつく赤葦に、まだつかまえたままだった髪の端を指にくるくると絡ませるようにして黒尾は少し歯を見せて笑った。曇り空の続く梅雨の夜は昼ほどは気温も高くなく、多少は冷やされた微風が吹いていたが相変わらずの湿気ですぐに肌の表面がしっとりし始める。生ぬるい外気とエアコンで冷やされた部屋の空気がちょうど赤葦と黒尾のいる窓の境目あたりでない交ぜになって、ふわふわと漂う。光らないまつげが流れるように瞬くのを見下ろして、その視界の隅に窓枠に乗せた黒尾の手が目に入る。その隣に、いつのまにか同じようにしていた自分の手があった。触れるように近いのに、触れるにはたぶんあとひとつが足りない。
「……勉強する時間、なくなりますよ」
別れを言うのはやっぱり気が引けて、でも辺に気を利かせて引き止める言葉ももう見つからない。黒尾は無意識にでも隠すけれど、赤葦はわざわざ取り繕うのは好きではない。
そうだなと言って、黒尾が赤葦の髪から手を離す。声のそっけなさとは違って、名残惜しむようにゆっくりと指先から離す様をきっと見送るようにしているのを、伏せてみた目元に髪の先がちくと触れたのに想像する。再び顔を見たときには窓枠からするりと黒尾の手も逃げていた。
「じゃああした」
「うん」
赤葦をかたどるその影から黒尾が這い出て、また一瞬その明るさに顔をしかめてから黒尾は身を翻した。からころと、つっかけの足音が家と家の間の細い路地裏に響いて遠ざかる。その背中に控えめな声で、ジャージ、とぶつけてやると手を上げたのが薄闇の中に見え、ふらりと家の陰に消えた。乗り出した上体を引っ込めて窓を閉める。ぴっとカーテンを引いて振り返ったとき、机の上にある雑誌に気づいてなんとなく、自分にため息をついた。


 ***


雲にぴったりとふたをされたような灰色の空が淀んだ海と平行にどこまでも広がっている。湿気った風にほのかに感じる潮の匂いに、肌をじわじわと侵す汗の不快感、野原の中に伸びる焦がれた熱を持つアスファルトの坂道に、眼下にある錆びた色の町並みも、前を歩く黒尾の丸まった背中も、すべて昨日と似通っている。差異を見つけるのは難しくて同じだと思ってもいいのに、なぜだか繰り返される毎日を昨日を生きているように錯覚しないのはとても不思議だ。
うっすらと汗の滲む額を拭いもしないで、今日の海行きも中止だなと赤葦は波の高い海のほうへ視線を投げかけて考える。白い波が砕けるのにも見覚えがあったけれど、そこに昨日を思い出すことはもうなかった。水平線の上の雲が沈んだ濃い色をしている。久々に雨が降るかもしれない。すると赤葦の思考が伝わったかのように、
「今日も海行けねえな」
と背中のままで黒尾が呟いた。そうですね、と答えて黒尾の首筋に一粒汗が伝うのを見てから、赤葦は指先でむずがゆくなった自分の額を払う。
「この時期はいっつも荒れてるからなー」
「まあ、梅雨ですから」
「明日晴れねえかな」
「たしか予報は雨って言ってましたよ」
「あーじゃ次の日。だめだったらそん次」
とにかく晴れたら、海、だ、と言い切って黒尾が跳ね上がった髪をかく。その声に意固地な色を滲ませるのを聞き取って、赤葦は口元を緩ませた。
ぐだぐだと道を下って海沿いの道へ突き当たる。今日は右に曲がらず左へ折れ、車の往来の少ない道路をさほど気を払うことなく横切って堤防脇の歩道を歩いた。揺れる波の音とぶつかって飛び跳ねる音がすぐ近くでする。音の激しさに、今日の海の荒れ具合をよくよく知る。明日の予報は当たるに違いなかった。
振り返ることのない黒尾の背からするすると頭のてっぺんまで視線を持ち上げて、遠くへ焦点をずらす。行く先のずうっと向こうに海へ出っ張った港があった。ほとんどの船は漁から戻り繋がれていて、上空を旋回して群れる海鳥の姿はもうない。ときどきここから見える定期船の姿もなかった。今日の荒れ具合なら欠航することはないだろうけれど、と疑うこともしない明日のことを思い浮かべる。ピューと笛のような海鳥の鳴き声が遠く頭上に、砕けゆく波の音にまぎれて聞こえたような気がした。
並んで歩かなくなったのはいつからだろう。180センチを越えた男が二人並ぶのは道幅がどうとかではなく窮屈で鬱陶しいのは想像に難くないけれども、別に横顔を見上げるのが恥ずかしくなったわけでもないのに、斜め後ろから見る顔の輪郭と変わらずにある背中にいつのまにか満足して理由は忘れてしまった。一足分、歩幅を大きくしてそっと一歩踏み出す。
来年の春には黒尾はこの島にいない。成績の良い黒尾のことだから志望の大学にはどこかしら合格するだろう。そうすればこの島の高校生は赤葦だけになる。もしかしたら高校自体がなくなって島外の高校へ定期船で通うようになるかもしれない。先送りにしているつもりはないけれど、今はまだそのことが上手く想像できなかった。こうして背中を追う日々もゆるやかに終わりへ近づいている。
赤葦、と名前を呼ばれたのに無意識に見つめていた背中から顔を上げる。
「はい」
「かーさんが高そうなアイスもらってきてさ、たぶんまだ残ってるから」
「ああ」
曖昧な会話に、相槌を打つ赤葦も受け取った黒尾も違和感を覚えることはなく明瞭な形のない言葉でその隙間を埋める。
重く、まとわりつく風が海沿いの道をそよいで散らばっていく。じとりとした空気にいつしか肌も覆われて何に暑さを感じているのか分からなくなる。見えない太陽のせいで時間さえ見失うようで、見慣れすぎた景色と知らずに身体をじっくりと灼く暑さにどこまでも果てなく歩いている気分だ。
雲の沈み込む低い空に塞がれて、やまない波の音と閉じられた海にゆるゆると追い込まれ、この島から子どもである自分たちはどこにも行けやしなくて、永遠と続くような名前のない日々を過ごす。それが赤葦と黒尾のすべてだった。
白いシャツに浮き出た黒尾の肩甲骨がのらりと動くのを見る。気づいて目を落とすと、大きな右手が後ろに差し出されていた。赤葦がその手を取らないなんてことは黒尾はひとかけらも考えてなどいないのだろう。少し腹立たしいけれどお互いさまかもしれなかった。黒尾が褒める手をそっと見やってゆるく握り締める。
黒尾の手のひらの中にあとひとつの理由が運よく落ちているわけでもないのに、そのことを考える自分を下らないとは笑い飛ばせない。何もなくても、きっと自分はいつもいつも、これからもずっとこうやって黒尾を追いかけていくだろう。
ゆっくりと伸ばした左手で黒尾の指先に触れる。そっと捕まえてから、黒尾の低くほんのりと甘い声を思い出して、その薬指と小指に指を絡ませた。やがてやさしく握り直されたのがまだ名前の見つからない形とそっくりなような気がして、したたかに自惚れて、赤葦はまだ誰にも見せない顔で、ふ、と小さくほどけるように笑った。


fin.(2014.8.7)
離島で暮らす2人の高校生の話。田舎な雰囲気ってほんと好きなのですが、本人はいたってインドア派です。虫苦手。
離島で高校生2人だけだったらほんとは高校なくなってると思うんですが、そこはちょっとパラレルファンタジーってことでどうぞご容赦ください。たぶんこんなだったら、もう島外の高校に行くことになってるよね。ドキュメンタリー見てるとそう思います。
はじめてクロ赤をちゃんと書くので、どんな雰囲気なのかなとかどんなふうに会話するんだろうとか、習作として書きたかったのもあるので、とりあえず同じ高校に通う設定にはしたかったのと、書きたいシーンを詰め込んでみました。たのしかった……
今回、習作なら遊んでみよう!と思い立って、単館系邦画みたいな雰囲気で書いてみたいなあと、カット割というか視点のみえ方とかあれこれ考えて書いてみたのが個人的におもしろかったです。映画のワンシーンの連なりに見えるようになればいいなーと思いつつ、そこそこ形にできたかなと思ったのは出だし部分くらいなんですが、ちょっとスクリーンを思い浮かべながら読んでもらえたらとてもとてもうれしいです。
赤葦はとっくに黒尾が自分のことを好きなのに気づいていて、肝心な言葉ひとつがないままにゆるゆると居場所も気持ちも狭まれているんだけれど、いつのまにか“好き”ってあたりをもう飛び越えている自分に、実はこっそりと気づいていたりします。黒尾が島を離れるまでに赤葦に何も言わずにいたら、いよいよ赤葦のターン。「来年追いかけていくんで待っててくださいね」って壁ドンしてキスでもすればいいじゃない。オトコマエ赤葦。
This fanfiction is written by chiaki.